アパート経営で必要な売却のタイミングは?消費税等を考慮する4つの出口戦略

アパート経営を続けていると、どうしてもこのまま収益がつづくと思ってしまいがち。でも建物は必ず劣化します。外観も汚れてきて、設備も古くなれば、だんだんと入居者も集まらなくなるでしょう。
状況によっては「売却」という出口戦略を真剣に検討したほうがいい場合も少なくありません。
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アパート売却の出口戦略に重要な4つのタイミング
アパート経営は、出口戦略=売却が重要といわれています。
なぜ出口戦略が重要なのかというと、同じアパートを長期間所有することで「修繕の増加」「需要の減少」など、さまざまなリスクが発生するからです。
一般的に、下記の4つが売却に適したタイミングといわれていますので、これから個別に詳しく解説します。
- 土地価格が上昇したとき
- 大規模修繕が必要となるとき
- 減価償却費期間が満了となった時点
- 売却額が購入額と投資額を足した金額を上回るとき
1.土地価格が上昇したとき
もうこれは言うまでもなく、土地価格が上昇したタイミングであれば、単純に高く売れる可能性が増えます。
国土交通省が発表する不動産価格指数をみると、おおよその土地価格のトレンドがわかります。
【全国住宅総合過去6年間の不動産価格指数】
出典:国土交通省 不動産価格指数(住宅)/common/001289117.xlsxより独自にグラフ作成
2013年1月から緩やかながら上昇傾向はつづいており、2019年1月には対前年比で4.4%の上昇です。
売却するのには、なかなかいいトレンドにあるといっていいのではないでしょうか。
今度は、国土交通省が発表した地価公示金額10年間の動きを個別にみてみましょう。
【北−3東京都北区王子2丁目17番17(202㎡)の場合】
平成21年 | 平成26年 | 平成31年 | |
北−3
王子2-6-16 |
37万円
(円/㎡) |
35万6000円(円/㎡) | 43万6000円(円/㎡) |
前回比 | — | −1万4000円 | +8万円 |
出典:国土交通省 標準地・基準地検索システム 国土交通省地価公示 北−3 より抜粋
5年前の平成26年には公示価格を落としていますが、平成31年には+8万円と大きく上昇しています。
これまた売却を考えるには、いい流れといえるでしょう。
ただし、土地の価値が上がれば建物も含めた物件価格も同様に上昇するとは限りません。
そのほかに株価や金利、周辺環境の変化など、さまざまな要素が絡んできますので、必ず総合的に判断してください。
2.大規模修繕が必要となるとき
一般的に10〜15年経過するころから、大規模修繕工事が必要になってきます。
新築物件ならともかく、中古物件で築年数が20〜30年になると、大規模修繕工事にかかる費用と家賃収入のバランスをよく考える必要があります。
仮にこれまで十分な収益が出ていたとしても、売却をして思い切って別の物件を購入するということを1番に考えておくべきです。
もちろんそのときの相場や買い手市場か売り手市場か、綿密な市場リサーチは不可欠です。
【アパート経営にかかる修繕費の目安】屋根等15の費用と築30年アパートの試算
3.減価償却費期間が満了となった時点
通常、10万円以上の建物・備品などは、経年劣化する分を考慮した「減価償却費」を減じて税金を支払います。ところが建物には、
- 木造アパート22年
- 軽量鉄骨プレハブ最長34年
と耐用年数が法律で決められているのです。
耐用年数を超えても住めなくなるわけではありません。しかし、税法上では資産価値はゼロと見なされてしまうわけです。
4.売却額が購入額と投資額を足した金額を上回るとき
単純にいって、もしアパートを買ったお金と投資してきたお金よりも高く売れるのであれば、絶好の売却チャンスです。
基本的にアパートは、購入した時点からどんどん価値が下がっていきます。ですから普通は買ったときよりも高く売れるということはありません。
しかし、今は下記のように、高値で売却できる可能性のある要因がたくさんあります。
- 2020年の東京オリンピック
- 2025年の大阪万博
- インバウンド政策による外国人投資家の増加
- 長期間つづく超低金利
早めに不動産業者の査定を受けて、いくらくらいで売却できるかを一度きちんと把握しておくことを強くおすすめします。
出口戦略で必要な税金など諸経費について、くわしく知りたい場合はこちらをクリック>>アパート売却時の諸経費や税金も考慮する
アパートが経営難になる前に……こんなときはアパート売却を視野に
仮に早めの売却に失敗したとしても、過度に焦る必要はありません。
売却はこれからでも遅くはありません。早めに対策をすれば、最低限の損ですむ場合も、うまくいけば収益を上げることだって十分あり得るのですから。
しかし、本当に経営難に陥る前に、今度はしっかりと売却のタイミングを外さないようにしましょう。
築年数によって入居率が低下したとき
アパート経営では空室が増えれば、その分収益がダイレクトに減ります。
立地がよくて新しくてきれいであれば、入居希望者に困ることはないでしょう。でも年数が経ち、建物や設備が劣化すれば、だんだんと入居希望者は減っていくのが普通です。
これまで長期間、安定して収益を挙げていたとすると、なんとかしてまた元の状態に戻したいと考えがちです。
当然、まずは空室を出さないために、いろいろな手を打つと思います。
- シングルレバー水栓交換などリフォーム
- インターネット代無料などサービス
- 入居者募集に強い管理会社と契約
しかし、上記のような対策をおこなっても空室が増えて収益が上がらない場合は、早めに売却に動くべきです。
メンテナンス費用が負担になってきたとき
故障したものを修理するという緊急性のあるトラブルも、経年劣化とともにどんどん増加していきます。
よく故障するものとしてエアコンや給湯器があります。もし買い替えることになれば、そのたびに約10万円の出費が発生します。
当然そのたびに収益が減っていくわけで、あまりにもメンテナンス費用が大きくなるようなら、これまた売却のいいタイミングといえるでしょう。
新築ならメンテナンス費用はほとんどかかりません。築年数が多くなれば、大規模修繕工事が必ず発生します。
大規模修繕工事は一見負担が大きそうですが、最初から計画していることなので、思っているよりは負担にならないはずです。
相続したアパートが赤字だったとき
木造アパートの場合、建ててから20年も過ぎれば、建物自体には基本的に資産価値は残っていません。
ようは売却の際に重要になるのは土地の価値だけなのですが、その土地の立地条件があまりよくなければ、売却しても利益にはならない可能性もあります。
それでも無理して赤字を続けるよりは、早い時期に物件を手放したほうが傷が浅くてすみます。
買い手がつきやすい魅力のあるアパートの条件
ある程度築年数が経っても価格を保てる魅力のある物件を最初に選ばないと、売るときに大幅に価格が下がってしまい、売るに売れないことにもなりかねません。
もっとも重要なのは実は「物件購入前のリサーチ」です。
ここでは「築年数」「物件の管理」「空室対策」について、詳しく解説します。
物件の築年数が15年くらいまで
アパートは築15年までに売却をしたほうが、買い手がつきやすい傾向にあります。
理由としては、まずイメージの問題が大きいですね。
10年以内だとまだまだ新しいという感覚がありますが、15年を超えるあたりから急激に古い物件というイメージを持たれてしまうようです。
実際、外観も設備も老朽化して、なんだかくたびれたアパートにみえてしまう時期でもあります。
建物の耐用年数も考慮するべきです。木造アパートなら22年で税法上は価値がなくなります。
もちろん、この年数を過ぎればすぐに壊れて住めなくなるわけでありませんが、どうしても築浅物件には人気の面で勝てません。
アパートの状態や設備がよい
買主にこれならまだ十分収益を生み出せると安心してもらうために、これまで実施してきた調査・修理・修繕工事の詳細を記録した「修繕履歴」を提出しましょう。
【主な記録項目】
- 雨漏り修繕
- 水回り修繕
- シロアリ駆除
- 外壁塗装
- 屋根・ベランダなど防水塗装
- 給湯器、エアコン、火災報知器などの修理・交換・設置年月日
- 廊下、階段など共用部修繕
日頃から修繕の内容をしっかりと記録し、見積書や領収書も保管しておけばベストです。
極端な話、アパートに誰も住まずにメンテナンスをまったくしなければ、おそらく数年でボロボロになるはずです。
その反面、こまめにきちんと修理やメンテナンスを施せば、20年経とうが入居者が途切れない物件になることも十分あり得ます。
空室が少ない
アパートの売却を考えた場合、空室が多いのはあまりいい状況ではありません。
なぜなら単純に収益物件として魅力がないから空室が多いと、判断されてしまうからです。
ですからすぐにでも満室にしたいところですが、設備が古い・立地が悪いなどなんらかの理由があるわけで、満室にするといっても簡単なことではありませんよね。
そこで活用したいのが「フリーレント」です。
こちらの記事では、中古アパートを買いたい人に向けて書いています。相手の気持ちがわかると売却のタイミングなどもわかるでしょう>>アパート経営で収益物件探し【5ステップ】中古や競売など儲かるアパートベスト5も紹介
古いアパートは更地で売却も視野に
築年数や物件の状態によっては、アパートは取り壊して更地での売却のほうが有利な場合もあります。
築20年未満なら様子をみて
アパートを売却する場合は、前述のとおり、築15年をひとつの目安にするのが基本です。
きちんと修繕を施して状態のいいアパートならば、法定耐用年数22年(木造アパートの場合)を超えても、まだしばらく十分な収益を出せる可能性があります。
そういう場合は、売却の前にもう一度しっかりと収益計画を立てて、継続と売却を比較分析してください。
ただし、いずれにしても、いつかは売却の決断をするときがきます。まだ収益があるからといって、あまりにも引っ張りすぎれば、今度は売却が困難になります。
築30年以上は更地売却も検討を
建物が築30年を経過しているのなら、継続して経営していくよりも早めの売却を考えるほうが現実的です。
また建物をそのままにして売るよりも、条件によっては更地で売却したほうが有利な場合があります。
特に駅から近い・交通の便がいい・周辺環境が充実しているなど立地条件がいい場合は、いろんな用途に対応できる更地のほうが好まれる傾向にあります。
ただ取引相手が、高額なアパートローンを新たに組める資金に余裕のある人に限定されてしまうのが、ネックといえるかもしれませんね。
アパート売却時の諸経費や税金も考慮する
さていよいよアパートを売却すると決めて、売却が成功しました。おめでとうございます。
しかし、これから支払わなくてはならない「諸経費」や「税金」は大丈夫ですか? どのくらいかかるかきちんと把握していますか?
多くの人が「売却金額=手元に残るお金」といったイメージを持っています。
しかし、先ほどもいったように、売却した金額から
- 査定費用
- 各種手数料
- 税金
などが差し引かれてしまいます。
査定費用
アパートを売却するのであれば、まずは所有物件の売買の相場を事前に調べておくことが大事。
査定のコツは1社だけでなく、複数の会社の見積もりを比較することに尽きます。
1社から見積もりされて、そのまま契約というのは、絶対に避けるべきです。その会社の見積もりが相場から極端に安くても、気づくすべがないからです。
また、不動産会社の無料査定と、不動産鑑定士による有料査定の違いもぜひ知っておいてください。
無料 | 有料 | |
誰が? | 不動産会社 | 不動産鑑定士 |
傾向 | 実勢価格よりやや高い | 実勢価格よりやや低い |
査定の用途 | 自社と取引してもらうため | 公的な証明書として |
表にあるように、無料と有料では査定の目的が違います。
できれば有料のほうがいいのでしょうが、不動産鑑定士の費用は、アパートで約15〜20万円と高額です。
売却のおおよその目安を把握するという目的に対しては、無料査定で十分です。
各種手数料
査定費用とは別に、売却時にはこまごまと費用が発生します。どんな費用があるかきちんと確認しておきましょう。
- 仲介手数料:物件価格×3%+6万円=仲介手数料(消費税別)
- 印紙税:1000万円超〜5000万円以下=1万円(2020年3月31日まで)
- 登記費用:登録免許税と司法書士報酬=約3万円
- 引越し費用
- そのほかの費用
- 測量費:約30〜40万円
- 解体費(解体が発生した場合):3〜8万円/1坪
- 産廃処分費:10万円〜
- ハウスクリーニング代:5万円〜
- 立ち退き料(立ち退きが必要な場合):家賃半年分〜
消費税
収益アパートの売却は、個人であっても「事業者」としての売却とみなされ、消費税の課税対象です。しかし、消費税の支払いをしなくてもいい場合があります。
基準期間(今事業年度の2期前の事業年度)に1000万円以上の売り上げがなければ、今年度に1000万円以上の売り上げがあっても、消費税は発生しません。
アパート経営の税金と控除について|事前対策で損をしない確定申告!
確定申告も忘れずに
所有するアパートを売却した際に利益が出れば、譲渡所得金額に対して、所得税と住民税が発生します。
注意したいのが、「所有期間による税率の違い」です。
所得
区分 |
短期譲渡所得
(所有期間が5年以下) |
長期譲渡所得
(所有期間が5年超) |
税率 | 39.63%
(所得税30%、住民税9%) |
20.315%
(所得税15%、住民税5%) |
※復興特別所得税も含む
税率は表のように大きく違ってきますので、売却時期には注意が必要。
売却して損が出た場合は税金が発生しないので、確定申告をしない人がいますが、正直これは非常にもったいないです。
まず不動産所得が赤字になったら、他の所得からその損失を差し引いて計算してくれます。
また損失が引ききれない場合は、翌年以降3年間で黒字が出たときに、利益と相殺することができます。
また3年間の損失の繰越しではなく、前年度の所得税から還付金という形でお金を戻してもらえる方法を選択することも可能です。
どちらにしても、確定申告のなかでも、青色申告でのみ受けられる恩恵(白色申告の場合、繰越額が少ない)です。アパート経営をしている場合は必ず青色申告をしましょう。
アパート経営者の売買にまつわる失敗談
「あー、もっとこうすればよかった」とあとから後悔しないように、他人の不動産売却の失敗談をいくつか挙げていきますので、今後の出口戦略の参考にしていきましょう。
【失敗談1:冷静な交渉ができなかった】
契約前になって買主側が後出しじゃんけんのように、「瑕疵担保をつけてほしい」といった要望を出してきたため、「面倒くさい人だなあ」「後で何かいってきたら困るなあ」といった“心情的な理由”から、相手の要求をつっぱねて、破談にしてしまったのです。
健美家というサイトで、ご自身の不動産売却の体験を語っていらした投資家の張田ミツルさんは、上記の理由から売買契約2日前に契約が破談になったそうです。
結局、次の契約では、相手の言い値で売却することになってしまいました。冷静に交渉することが大事ですね。
【失敗談2:事前の調査不足】
その後、一度空いた部屋はなかなか埋まらず、結局賃料を1割値引きして、礼金無し、フリーレント1ヶ月の条件にすることで、ようやく埋めることができました。
どうやら、最初に業者が設定していた賃料が、新築プレミアムを上乗せした相場より相当高い価格設定だったようです。
引用:地獄大家 不動産投資で地獄を見たブログ 不労所得を得るはずだった新築アパートが…(第2回)
地獄大家さんの失敗談ですが、非常に参考になりますね。最初は満室で安心していたところ、いきなりの空室ラッシュ。原因は相場よりも相当高い家賃設定とのことでした。
これは正直、事前に調査をすれば避けられた失敗です。アパート経営の出口戦略をこれまで解説してきましたが、結局は購入時にすべては決まるという、いい事例だと思います。
まとめ
アパート経営を成功させるには、早い段階で出口戦略をきちんと立てることが大事。出口戦略とは、ズバリ「アパートの売却」です。
同じアパートで永遠に収益を上げ続けることはあり得ません。いつかは手放すときがきます。その売却時に損をしないように、売却のタイミングと注意すべきポイントを外さないようにしましょう。
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