アパートを購入して経営したい【宅建士が教える】政府系サイトで相場と地域特性を調べる方法

アパート経営をしようと考えて不動産ポータルサイトを閲覧すると、物件情報に必ず記載されている「利回り」。物件の良し悪しや、検討対象をフィルタリングするときの重要な指標です。
あなたも利回りを優先に物件検索することが多いと思います。同じくらい……いえ! それ以上に重要なポイントが「相場」です。
「相場」は物件情報のどこにも記載されていない “ブラックボックス” のようなもの。
物件情報から「相場」を読み解けるようになると、物件の選択眼が格段に向上します。そして「相場」に深く関連する「エリア特性」も重要です。
アパート経営をはじめるにあたって、ぜひとも知っておきたい「相場とエリア特性」を知る方法。インターネットの活用による簡単な方法を『あぱたい』がお届けします。
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アパート経営の運命は「購入」で決まる!?
アパート経営がうまくいくか失敗に終わるかは、物件を購入する時点で決まっているといっても過言ではありません。アパートの取得にあたっては、適正な購入価格とエリアマーケティングの最適化が大切。
そのために大事なことは次のふたつ。
- 各エリアの物件価格の相場を把握する
- あらかじめエリア特性を知っておく
住み馴れた地域を拠点に不動産投資するケースもあれば、将来の市場性に期待が持てる競争の少ない地域に進出するケースもあります。どちらの場合も市場エリアとなる賃貸環境を知らずに飛び込むのは危険です。
孫子の有名な言葉に以下があります。
彼を知り己を知れば百戦殆うからず
敵と自分(味方)のことをよく知れば戦いに負けないという意味。「相場とエリア特性」を知ることが安定したアパート経営をおこなう必要条件であると読み替えられますね。
購入するアパートの「相場」と「エリア特性」の調べかた
「相場とエリア特性」を知ると適正な購入価格を判断でき、エリアにマッチしたマーケティングが可能です。相場とエリア特性の調べかたを解説させていただく前に、なぜ相場とエリア特性が大事なのか要素別に把握しておきましょう。
- 相場を知ることで物件価格が適正かどうか確認できる
- 安く買えるエリアを知ることができる
- 相場から「そのエリアの利便性」を推測できる
- エリア特性を知れば物件タイプを絞れる(1Kやファミリータイプなど)
- 将来的な人口増減などのリスクを把握できる
- そのエリアに住む人の年齢層などからターゲットを絞れる
- そのエリアの将来像から出口戦略のタイミングを計れる
購入する中古アパートの「相場」を調べる方法
相場を知るには不動産投資ポータルサイト「LIFULL HOME’S 不動産投資」がオススメです。
物件を探す地域ですが、一例として北海道札幌市の物件から有望物件を探してみます。以下の条件で検索をかけましょう。
- 都道府県:北海道
- 市町村:札幌市
- 物件種別:売アパート
上記までで物件の一覧が表示されます。物件価格や築年数、駅徒歩の時間などをみながら、ざっとそのエリアの価格帯に目を通してみましょう。この作業だけでも大まかな相場が把握できますよ!
購入する物件は安い?高い?宅地建物取引士のわたしがオススメする調べかた!
物件の一覧が表示されたら、できればエクセルなどを使用して物件の一覧表を作成してみましょう!
具体的には以下のようなイメージですが、これは筆者の知識をもとにした特殊な表です。あくまでご参考までにご覧ください。
中古アパートの相場価格といっても、不動産情報サイトに表示される価格は土地と建物の合計金額。つまり売り出し価格が相場より安いか高いか判断するには、建物と土地をわけて考えなければいけないのです。
実は建物価格の計算は非常に複雑であり、不動産鑑定士などの高度な知識を持っている人でも正確に計算するのは難しいと言われます。そこで比較的に簡単な「原価法」を使用して、建物価格の算出方法をお教えします。
むつかしい概念の計算ですので詳しくは割愛しますが、まずは以下の式を覚えましょう。
建築費 × 建物面積 × (耐用年数 - 築年数) ÷ 耐用年数 = 建物価格
式にある「建築費」をいくらにするかも専門家によって意見はわかれますが、国土交通省がまとめている「住宅着工統計」のデータが参考になります。なお一般的には、木造住宅で貸家の建築費は1㎡16~17万円程度。
そこで建築費を16万円と仮定して、上表の色が付いた「手稲区稲穂二条6丁目」の建物価格を原価法の式に当てはめて求めてみましょう。
16万円 × 499㎡ × (22年 - 10年) ÷ 22年 = 4,354万円
上表では特殊な計算をしているため金額は一致しません。おおむね同じような建物価格が算出されました。
あとは以下の式にて土地価格と土地の㎡単価を求めます。
物件価格5450万円 - 建物価格4,354万円 = 土地価格1,096万円
土地価格1,096万円 ÷ 土地面積359㎡ = 土地㎡単価3万500円
同エリアについて筆者が確認したところ、土地価格の指標と言われる公示地価は「4万5,000円」。相続税の計算などで使用される路線価は「3万8,000円」でした。
つまり今回計算した土地価格は、公示地価はおろか、市場価格の7割前後安く計算される路線価よりも安い物件と判断できます。
建物価格がエリアによって違うということはありませんので、中古物件の価格は土地価格をメインに考えるのが一般的。
建物の築年数などを勘案しつつ、物件価格が高いか安いか総合的に判断する必要があるというのは覚えておきましょう!
アパート経営に適した「エリア特性」を調べる方法
あらゆる統計データを地図でみる!「e-Stat 政府統計の総合窓口」
総務省統計局が整備し、独立行政法人統計センターが運用しているサイト。各省庁が所管する統計データを一元的に管理し、データ活用をワンストップで可能にしています。
統計データは次の17分野。
- 国土・気象
- 人口・世帯
- 労働・賃金
- 農林水産業
- 鉱工業
- 商業・サービス業
- 企業・家計・経済
- 住宅・土地・建設
- エネルギー・水
- 運輸・観光
- 情報通信・科学技術
- 教育・文化・スポーツ・生活
- 行財政
- 司法・安全・環境
- 社会保障・衛生
- 国際
- その他
具体的な使用方法ですが、まずトップ画面の「地図」にアクセスすると以下のページに遷移します。
続いて「>地図で見る統計(jSTAT MAP)」にアクセスするとログイン画面が表示されますが「×」ボタンで表示を消しましょう。
右下の「統計地図作成」から「統計グラフの作成」をクリックすると、以下の画面が表示されます。
ここではいったん、ライバル物件の数を調査するという意味合いで、民営借家(賃貸物件)を選択して設定しました。
最後に「次へ」をクリックすると、地図上で民営借家の数が色わけされて表示されます。
このように地図上でデータを確認できれば、賃貸住宅の少ないエリアにターゲットを絞って物件探しが可能です。
例えば上図でみたときに、画面上部の「和光市」が比較的に民間借家は少ないのがわかります。あとは商業施設や病院数、どんな世帯層が住んでいるのかなどを調査しましょう。
これでエリア特性に合わせたアパート経営にグッと近づけますね!
ビッグデータをみえる化!「RESAS 地域経済分析システム」
ビッグデータを集約して産業構造や人口動態などを「みえる化」するため、内閣府が運営するサイト。
- 人口増減や地域間流動数
- 各産業の事業者数や製造・生産・販売品目や数量
- 観光における日本人と外国人別の滞在・訪問数と消費額
- 有効求人倍率やひとりあたり賃金
- 要介護者認定者数や人口10万人あたり医師数と介護施設数
- 自治体別財政データ
例えば「高齢者に特化した賃貸事業」を検討するなら、知りたいエリア特性として「介護関係のデータ」を調べなければなりません。
そこで介護サービス需給者数を都道府県別に地図上に落したデータをRESASで調べてみると、下図のように表示されます。
引用:RESAS 地域経済分析システム 雇用/医療・福祉マップ|介護受給
都道府県別でボリューム数に応じて色わけされているので、ひと目で地域間の違いが把握でき、マウスポインターでクリックすると実数が表示されます。
紹介したふたつのサイトは扱われているデータの種類に違いがあるので、使いわけすることがポイント。
ご紹介したふたつのサイトは政府が運用しているため難解なデータがでてくるかと思いきや、視覚化されて直感的に理解できるかなり使えるサイトです。
アパート経営の物件購入で気をつけるべき注意点
「相場」と「エリア特性」を知るとみえてくる点がふたつあります。
- 購入してはいけない物件
- NGな購入方法
つまりアパート物件の購入時に気をつけるべき注意点です。
アパート経営で購入してはいけない物件
相場より安い物件には “安くしなければならない理由” があります。その理由は物件そのものが抱えている問題と、エリア特性により安くしなければ売れない事情があるため。
具体的には、
- 入居率が低く空室対策に苦労している
- 使い勝手の悪さなど居住性に難のある物件
- 犯罪率が高く治安に問題があるエリア
- 道路交通量が多く交通事故など安全面や騒音を理由に敬遠されるエリア
- 反社会勢力に関わりのある事務所などがあるエリア
- 人口減少が著しいため近隣にある商業施設の撤退などが予想されるエリア
- 建築基準法に違反しているためアパートローンなどの融資が引けない
- 車利用が不可欠なエリアで駐車台数が不足している
上記のような物件やエリアに該当すれば、入退去が繰り返されて空室が増える上に修繕費もかさみます。
相場とエリア特性をみながら、安い物件である理由は必ず確認しましょう。理由がわかれば「購入してはいけない物件」かどうかもみえてくるはずです。
アパート経営でNGな購入方法
アパート購入は、事前に詳細資料を交付してもらって検討するのが普通です。売買契約を締結する前までに、重要事項説明書も含めたさまざまな資料を媒介業者からみせてもらえます。ただ物件探しや検討期間中にやるべきことをやらずに失敗するケースがあるのも事実。
- 媒介業者からみせられた売買事例が相場とはズレていることに気付かず高値で買ってしまう
- レントロールを確認せず、物件購入後に退去や家賃減額が発生した
- 近隣にあった工場の従業員が多く入居していたが、工場閉鎖や移転により大量の空室が発生した
- 営業マンにみせられた収支シミュレーションを鵜呑みにして、空室がまったく埋まらず家賃減額
上記はアパート経営に限らず、不動産投資全般で陥りがちな失敗です。
アパート経営で購入すべき物件は、必ず自分の目と足で情報を得るのが大原則。特にリスクとなり得るポイントが隠れていないかこまかくチェックしましょう。
アパート経営の差別化は購入前に決める!
アパート経営の物件購入前に「相場」と「エリア特性」を把握できれば、エリア内にある競合物件との差別化を図れるというメリットを得られます。
例えば相場より安い物件をみつけられれば、リフォームやリノベーションにお金をかけられます。
また、そのエリアに住む人の属性や周辺環境などが把握できれば、エリアに適したアパート経営を実現できるでしょう。
では相場とエリア特性を把握できたら、具体的にどんな差別化ができるかみてみましょう。
- 女性が多いエリアならデザイナーズマンション風のリノベーション
- ペット可の物件が少ないエリアならペット同居型の設備を充実させるリフォーム
- 単身者世帯の多いエリアなら宅配ポストを設置して利便性を高める
- 敷地に余裕があれば太陽光発電を設置して居住者への電力供給や余剰電力を売電できる
- ファミリー層の多いエリアなら子育て世帯に対応した間取りにリノベーション
エリア特性から浮かびあがる需要にマッチさせるには、潜在ニーズをみつけ出して設備やデザインに反映させる技術と資金が必要です。
「相場より安く購入できた」「投下資本が少なく済んだ」と喜ぶだけでは道半ば。浮いた資金を攻めの戦略に投資して、物件のアップグレードや家賃収入の最大化を図るのが差別化の極みです。
まとめ
「掘出しモノ」「レア物件」「お得」といった言葉がつく物件は、すべて相場を大きく割り込んだ物件です。しかし本当に相場より安いのかを判断するには、相場の調べかたを知らなければなりません。
- 不動産会社の営業マンがいうから
- インターネット広告に相場より安いと書いているから
このような理由で購入したアパートが、実は相場よりも高いなんてことはザラです。いざ売ろうと思ったところで希望価格での購入希望者があらわれず、はじめて本当の相場を知るのです。
相場には「売り手側からみた相場」と「買い手側からみた相場」があります。
買い手相場を無視した物件価格でないか、客観的な相場観とエリア特性から見抜く洞察力が大切です。