アパート経営を法人化【4つのメリットと5つのデメリット】個人のお得な節税効果を徹底解説

個人事業と法人のどちらがよいか。
アパート経営をはじめたら、いつかは考えるべき課題と言えるでしょう。規模が大きくなるにつれて、個人事業では不都合が生じてくる場合も少なくありません。
- 一定以上の収入がある
- 利益を分配したい相手(家族など)がいる
- 今後もアパートを積極的に増やしたい
上記のような条件にあてはまるのであれば、法人化を検討したほうがよいかもしれません。
今回は「あぱたい」がアパート経営を法人化する4つのメリットと5つのデメリットを詳しくご紹介します。
個人大家から会社社長になるとなにが変わるのか? しっかりと学んでいきましょう。
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アパート経営を法人化する4つのメリット
アパート経営を法人化すれば、税務や経費の面でメリットになるケースがあります。ただ個別の状況で適用すべき税率などが変わるため、ここで解説するのはあくまで基礎知識の部分としてご覧ください。
【メリット1】アパート経営の法人化で「所得税」が安くなる!?
アパート経営を法人化するメリットのひとつは所得税が抑えられること。
まず個人大家の場合の所得税をみていきましょう。
個人の所得税は累進課税のため、所得が小さいほど所得税率が低くなります。つまり所得が大きくなると所得税率も増える仕組みのため、一定以上の所得がないと法人化する意味がありません。例えば所得が900万円を超えると所得税率は33%、住民税と合わせると43%にもなります。
【個人大家の所得税】
所得税が課税される所得金額 |
所得税率 |
住民税率 |
控除額 |
||
195万円以下 |
5% |
10% |
0円 |
||
195万円を超え330万円以下 |
10% |
10% |
97,500円 |
||
330万円を超え695万円以下 |
20% |
10% |
427,500円 |
||
695万円を超え900万円以下 |
23% |
10% |
636,000円 |
||
900万円を超え1,800万円以下 |
33% |
10% |
1,536,000円 |
||
1,800万円を超え4,000万円以下 |
40% |
10% |
2,796,000円 |
||
4,000万円超 |
45% |
10% |
4,796,000円 |
※東京都23区に居住の場合 ※個人住民税は別途均等割5,000円
出典:国税庁 所得税の税率
一方、アパート経営を法人化した場合の税金をみてみましょう。
法人の所得にかかる税金は、法人税、法人事業税、法人住民税と3種類あります。法人の所得にかかる税金は所得額によって若干パーセンテージが変わる部分があるものの、そこまで大きな差にはなりません。
《法人税》
800万円以下の部分 |
法人所得の19% |
800万円超の部分 |
法人所得の23.2% |
出典:国税庁 法人税の税率
《法人事業税》
所得2500万円以下 |
所得2500万円超 |
|
400万円以下の部分 |
法人所得の3.5% |
法人所得の3.75% |
400万円超から800万円以下の部分 |
法人所得の5.3% |
法人所得の5.665% |
800万円超 |
法人所得の7% |
法人所得の7.48% |
※東京都23区に居住の場合
出典:東京都主税局 法人事業税
《法人住民税》
法人税額1000万円以下 |
法人税額の7% |
法人税額1000万円超 |
法人税額の10.4% |
※東京23区に居住の場合
※別途均等割、7万円(資本金1千万円以下、従業員50人以下、23区内に1事業所の場合。資本金、従業員数、事業所設置場所によって変わる)
出典:東京都主税局 法人都民税
ではアパート経営による所得が1000万円として、個人と法人の税金を比較してみましょう。
〈個人事業主の場合〉 1000万円 × (所得税率33% + 住民税率10%) - 控除額153万6,000円 = 276万4,000円(A) 個人住民税の均等割:5,000円(B) A + B = 276万9,000円
〈法人の場合〉 法人所得税:所得800万円 × 19% + 所得200万円 × 23.2% = 198万4,000円(A) 法人事業税:所得400万円 × 3.5% + 所得400万円 × 5.3% + 所得200万円 × 7% = 49万2,000円(B) 法人住民税の所得割:法人税198万4,000円 × 7% = 13万8,880円(C) 法人住民税の均等割:7万円(D) A + B + C + D = 268万4,880円
所得が900万円を超えると個人所得税の税率は急激に高くなるため、法人化したほうが所得にかかる税金の額を抑えられる場合があります。
税金の計算は個人によって異なります。詳細は必ず税理士に相談しましょう。
【メリット2】法人化すると「経費」にできるものが増える!
アパート経営を法人化するふたつ目のメリット。法人は個人に比べ経費として計上できる項目が多くあります。
特にメリットのある項目は下記のとおり。
項目 |
個人の場合 |
法人の場合 |
|
生命保険 |
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家族への役員報酬 |
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|
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携帯電話、自家用車 |
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生命保険や携帯電話、車などは個人事業でも必要です。しかし個人事業だと、アパート経営の費用か私的な費用か証明するのは困難です。法人が契約者になるとそういったハードルがなくなるため大きなメリットといえるでしょう。
また家族を法人の役員にすれば、アパート経営の利益から役員報酬を支払えますので相続税対策にもなります。つまり家族にあらかじめアパート経営の利益を分配しておけば、自分に何かあったときに相続税を節税できるのです。
【メリット3】アパート経営の経費をストック! 「欠損金の繰り越し」
欠損金を10年間繰り越せるのがアパート経営を法人化する3つ目のメリット。欠損金とは聞きなれない言葉ですが、簡単にいうと赤字のこと。
確定申告書を提出する法人の各事業年度開始の日前9年(注1)以内に開始した事業年度で青色申告書を提出した事業年度に生じた欠損金額は、その各事業年度の所得金額の計算上損金の額に算入されます。
平成28年度の税制改正により、平成30年4月1日以後に開始する事業年度において生ずる欠損金額の繰越期間は10年とされています。
出典:国税庁 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除
個人事業主でも青色申告により赤字を三年間繰り越せます。しかし法人の場合、赤字を繰り越す期間が10年間に延びるのです。この期間の長さがメリットといえます。
繰り越しのために必要な要件は下記のとおり。
- 欠損金が生じた事業年度において青色申告書を提出している法人
- その後の各事業年度も連続して確定申告をしている法人
- 帳簿書類を保存している法人
さらに法人の場合、前年の黒字を今年の赤字と相殺が可能です。これを「青色欠損金の繰り戻しによる還付制度」と言います。
つまり、前年に納付した法人税と今年の赤字に相当する額による差額を一部返してもらえるのです。
ただし、法人税のみが対象で法人事業税や法人住民税は対象外となります。
【メリット4】法人化により「減価償却」が任意になる!?
アパート経営を法人化する4つ目のメリットは減価償却についてです。アパートや設備の劣化を費用と見なして、耐用年数に合わせて毎年経費計上していく仕組みが減価償却。個人のアパート経営では、必ず経費に減価償却費を計上しなければならない強制償却が原則です。
対する法人の場合、算出した年間の減価償却費の範囲内であれば自由な金額を経費にできます。つまり毎年の減価償却費を減らし、翌年に繰り越せるのです。これを任意償却と言います。
例えば毎年の減価償却費が1000万円で、最終的に赤字が400万円だった場合。
普通に確定申告すれば単なる赤字ですが、減価償却費を500万円で計上すれば帳簿上は100万円の利益にできます。
税制上は任意償却そのものに問題はないとされています。ただ銀行から見た任意償却はマイナス評価になる可能性があるため注意しましょう。減価償却で利益を調整されてしまうと、融資にあたって必要な経営の健全性が判断しづらくなるためです。最悪の場合、粉飾決算を疑われてしまうことも……。
アパート経営を法人化する5つのデメリット
アパート経営の法人化によるメリットを4つご紹介しましたが、もちろんデメリットもあります。
アパート経営を法人化するデメリットは、なんといっても個人大家では必要なかった税金がかかることや煩雑になる手続き。それらのデメリットもしっかりと把握して法人化に備えましょう。
【デメリット1】法人化すると赤字でも納税が必要「住民税の均等割」
法人は所得が赤字でも一定額の納税が必要。
法人住民税の話題となると、法人税額にパーセンテージをかけて算出する所得割にスポットが当てられがち。ただほかにも、法人が赤字でもかかる「均等割」があります。均等割はアパート経営が赤字でも納税する必要があるのです。
法人住民税の均等割は、算出方法が都道府県によって異なります。東京都の23区内に事務所がある場合を例にしてみてみましょう。
資本金の額 |
均等割額(道府県分+特別区分) |
|
従業者数50人以下 |
従業者数50人超 |
|
1千万円以下 |
70,000円 |
140,000円 |
1千万円超~1億円以下 |
180,000円 |
200,000円 |
1億円超~10億円以下 |
290,000円 |
530,000円 |
10億円超~50億円以下 |
950,000円 |
2,290,000円 |
50億円超 |
1,210,000円 |
3,800,000円 |
※公共法人、公益法人は除く
※23区内のみに事務所を有する法人とする。
資本金1千万円以下で従業者数50人以下の法人であれば、均等割りは年間7万円です。均等割りは資本金額と従業者数によって変動し、最高額は380万円とかなり高額。小規模な法人でも最低年間7万円はかかります。
法人住民税の均等割は、個人事業主と比較してわかりやすいデメリットと言えるでしょう。
【デメリット2】アパート経営の法人化は「税金が二重」で必要
ふたつ目のデメリットは、不動産の名義を個人から法人に変更する際にかかる税金。
個人で不動産を取得した際にかかった税金が、法人化によりあらためて課税されるため税金が二重になるのです。
アパート経営の法人化により必要になる税金は下記のとおり。
《不動産取得税》
種別 |
税率 |
|
土地 |
不動産価格の1/2※の3% |
|
建物(住宅) |
不動産価格の1/2※の3% |
|
建物(住宅以外) |
不動産価格の1/2※の4% |
※令和3年までの取得の場合
《登録免許税》
所有権移転登記 |
土地の売買 |
固定資産税評価額の2% |
|
建物の売買 |
固定資産税評価額の2% |
そのほかにも個人から法人に売却する際の「売買契約書に貼付する印紙代」も必要です。
【デメリット3】アパート経営の法人化は「出費」が増える
3つ目のデメリットは法人化をする際にかかる税金などの出費。
法人を設立するには、定款を作成し法人として登記する費用が必要になります。登記費用は設立する会社の種類によって異なり、株式会社よりは合同会社のほうが少額です。
株式会社 |
合同会社 |
||
収入印紙 |
40,000円(電子定款なら不要) |
40,000円(電子定款なら不要) |
|
定款認証手数料 |
50,000円 |
0円(認証は不要) |
|
登録免許税 |
資本金の0.7% 最低額150,000円 |
資本金の0.7% 最低額60,000円 |
登記費用のほかに社会保険への加入も必要になります。規模の小さい個人事業であれば労災保険以外は任意加入ですが、法人の社会保険は加入が義務。法人化して加入が必要な社会保険は下記のとおり。
- 労災保険
- 雇用保険
- 厚生年金保険
- 健康保険
- 介護保険
社会保険を出費として考えるとデメリットですが、従業員からすれば生活するうえでの最低保証です。家族を従業員にするといったようなケースならメリットにもなり得ます。
【デメリット4】アパート経営の「家賃収入」が自分のものではなくなる
4つ目のデメリットは、アパート経営の家賃収入が自由につかえなくなる点。
個人事業の場合、家賃収入はまるまる自分の収入です。家賃収入を子供の学費に使おうがアパートの外壁塗装に使おうがまったくの自由。想定外の出費などには対応しやすいというわけです。
しかし法人化すると、自分への給与は事業年度ごとに決めた役員報酬のみ。つまり自分の収入が固定化されてしまうのです。アパート経営の収入は比較的安定しているため報酬額は定めやすいのですが、個人として想定外の出費があっても報酬を増やせません。
会計上はごく当たり前の話ですが、個人事業を長くやっていると感覚が麻痺して「自由に使える家賃収入」に慣れてしまいます。意識的に注意するといいでしょう。
【デメリット5】法人化により「事務」作業が増加する
法人化するデメリット5つ目は、負担が増える事務作業です。
法人の場合は会計を会社法に則って処理するため、会計処理や税務関係の手間が各段に増えます。
- 会計処理:個人事業では不要だった給与計算などの処理が増加
- 税務関係:税務申告書の作成が必要
- 社会保険:労災保険や雇用保険など社会保険の手続きが増加
- 会社登記:登記事項の変更などの手続きが必要
事務作業は外注も可能ですが、すべてを外注するとけっこうな費用がかかります。また外注により自身が経営状況を把握しづらくなるのもデメリット。最初の数年は外注したとしても、できるだけ自分で処理することをおすすめします。
アパート経営を法人化するふたつのタイミング
アパート経営の法人化を検討するのに適したタイミングはどんなときでしょうか。なるべくかかる費用が少なくなるタイミングや節税効果の大きいタイミングを解説します。
最初から法人としてアパート経営する
アパート経営を法人化するなら、最初から法人としてスタートすれば各費用を抑えられます。
個人事業としてアパート経営を開始してから法人化に踏み切ると、所有するアパートを法人名義にしなければいけません。つまり不動産取得税、登録免許税といった税金が二重にかかるのです。各税金は不動産の取得価格に対してかかるため、税負担は想定上に大きくなります。
アパート経営を開始する際に法人の設立をおこなうのは、費用面でも手続き面でもハードルが高いように感じますね。しかしその後にかかる費用を考慮すると、もっとも合理的な方法だと言えます。
会社設立にかかる費用も合同会社で設立すれば約10万円程度で可能です。会社経営をはじめてから、合同会社から株式会社への変更もできます。
税率が変わるタイミングで法人化する
法人化を検討するもうひとつのタイミングは、個人の所得税や住民税が法人税等に比べて高くなったときがよいでしょう。
【メリット1】で説明したとおり、個人と法人の税金を比較するとターニングポイントは所得900万円超となります。実際に法人化すれば家族に所得を分散して節税できるため、税金はより少なくできるのです。
そのほかにも家族を法人役員にするタイミング、そして2棟目3棟目と買い増すタイミングが法人化の検討に適しています。
もっと賢くアパート経営を法人化するタイミングが知りたいかたはこちら>>アパート経営を法人化する賢いタイミングは?会社設立で節税対策と相続準備
まとめ
個人事業のアパート経営にもそれなりにメリットはありますが、アパートを買い増しして資産を増やしていきたい場合や家族に利益を分配したい場合は、法人化を検討したほうがよいでしょう。
法人化は税制などのメリットがある反面、手続きの煩雑さや自由度が低くなるといったデメリットもあります。
メリットデメリットをよく把握して、自分にあった経営方法を選択しましょう。